2015年10月31日

生頼範義氏の訃報

もう、4日も前のこととて、ニュースとは言いがたいのだが、イラストレイターの生頼範義氏が亡くなられた。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151028/k10010285341000.html

代表作は、スターウォーズのポスター、ということになるのだろうが、個人的には70年代から80年代の、国産SFの表紙が記憶に残っている。
小松左京の「復活の日」、平井和正の「ゾンビー・ハンター」やウルフガイシリーズと、男性的なごつごつとしたタッチと、原色の照明を多用した明暗のコントラストは緊迫感に満ち、手にする一冊のうちに広がる世界のスケールを、高校生の私に無限のものとして思い描かせてくれた。
ことに、小松左京の長編については、氏のイラストよりほかの組み合わせは想像することができない。

なんとも、残念としか言いようがない。



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2015年10月25日

強欲な羊

 作者の美輪和音は、大良美波子の名義で映画「着信アリ」シリーズの脚本を手がけているのだとか。なるほど、ミステリの装いを備えつつも、本書もまたそういった作者の嗜好を反映しているようだ。
 
 連作、全5編
「強欲な羊」
「背徳の羊」
「眠れぬ夜の羊」
「ストックホルムの羊」
「生贄の羊」

 以下、全編の簡単な感想。
 「強欲な羊」の舞台は明示されていないが、現在よりは数十年ほどは昔のことのようである。その時代らしさと些かの耽美趣味への傾斜を漂わせる文体は味があるが、巻頭作としてはやや硬め。しかし、少々とりつきにくく思いつつも読み進めてみれば、「真相」にたどり着くまでに設けられた迷路は中々に巧妙にして血なまぐさい。
 
 「背徳の羊」の舞台は一転して現代、そしていかにも現代風の不倫を題材としたストーリー。
 こちらも登場人物がそれぞれに怪しく、最後まで真相を見通すことは難しい。脇役でちょいと顔を見せる女医が、奇妙にキャラ立ちして魅力的なのは、あるいは他の作品でも登場しているとかだろうか。
 
 「眠れぬ夜の羊」は、本書中、「生贄の羊」についでホラーの色が濃い。
 ミスディレクションを誘う周到な伏線に、私などは簡単にだまされてしまうわけなのだが、個人的に感興を覚えたのは、むしろモダンホラー的戦慄を呼び込む展開だった。
 
 「ストックホルムの羊」は、そのタイトルも意味深。
 危うげな女性、数人のモノローグで語られる「王子と召使たち」の生活。
 5編中では、もっとも異色というべきだろうが、これもまたミステリーというよりも、特殊なホラーに分類した方が、という作品。
 
 「生贄の羊」は、これはもう完全にホラー。
 ソリッドシチュエーション、都市伝説、そういった要素を取り込んで、しかもラストにふさわしく、ここまでの諸編の別の顔を垣間見させてくれるような、作者の「奸計」に満ちた一作。
 
 と、ここまで書いてきたように、やはりミステリ好きの人よりも、ホラー好きの人向けかな、という一冊。★2つ半。

2015年10月18日

水魑の如き沈むもの

 刀城言耶シリーズ、長編第5作。
奈良の山奥、波美地方の“水魑様”を祀る四つの村で、数年ぶりに風変わりな雨乞いの儀式が行われる。儀式の日、この地を訪れていた刀城言耶の眼前で起こる不可能犯罪。今、神男連続殺人の幕が切って落とされた。ホラーとミステリの見事な融合。シリーズ集大成と言える第10回本格ミステリ大賞に輝く第五長編。
                        本書裏表紙、内容紹介より

 ホラーとミステリーの魅力を併せ持つこのシリーズだが、本作ではことにホラーの要素が濃厚である。シリーズ全体に影を落とす憑き物筋の怪異と、柳田國男の著書を引いて語られる血腥い呪術的祭祀など、ミステリーを読むつもりで手に取った人は、いささか辟易としてしまうのではないかと思われるほどに、異界との接触を描いた件が大きな部分を占めている。
 本来ミステリー読みではなく、怪談好きである私のような人間にとっては、こういった傾向は歓迎なのだが、しかし、その部分のパワーは……と言うと……うーん、ダウンしたと言うのではないが、個人的にはやや慣れのようなものがある(苦笑)
 本作でもそうなのだが、恐怖を体験し、それを語るのは精々中学校に上がるかどうかという年齢の少年がメインだ。そういった無力な年齢での恐怖経験を描くのが作者の志向なのかと思うが、もう少し、年齢の高い人物をメインにした作品の方が、私の趣味だ。
 
 他方、ミステリーとしての完成度については、およそまともに推理さえ試みない私などには評価不能だ(笑) とは言え、三津田作品のキモとも言うべき二転三転して、その度に見えてくる世界がその容貌を変ずるような、推理の畳み掛けは本作でも健在である。ただし、個人的な三津田作品中のベストである『首無の如き祟るもの』には、わずかに及ばないようにも思う。
 尚、本作では三津田作品の定番である、「見取り図が無くてはよくわからない怪建築物」が登場しないので、その分だけは私のようなミステリー不適格者にも悩み無く読み進めることができる。加えて文章のテンポもまた良好であり、また、阿武隈川先輩と祖父江偲の活躍も増えたところから、700ページを越えるボリュームながらシリーズ中もっとも読みやすい一冊となっているように思う。
 反面、文章の洗練とともに尖った個性が希薄になった、という読後感も無いわけではないが、これはやはり「ない物ねだり」ということになるだろう。★3つ。

2015年10月12日

真田十忍抄

 菊地秀行が描く「真田十勇士」の物語。

 山田風太郎へのリスペクトに満ちた作品を数多く発表している菊地秀行だが、本格的な忍者ものの時代小説については、あまり記憶にない。それでは本作こそが、その代表作となるのか……と思えば、いや、どうだろう。

 なんとなれば、菊地秀行はやはり菊地秀行なのだ。
 猿飛佐助の自在に操る妖糸とも言うべき「武器」は、物理法則を越えて万物を切断し、超絶美形キャラは、その美貌そのものが怪しい忍の技の源泉であり、さらに美女は、これまたやはり、過剰なまでに淫蕩である。そして、立川文庫以来の快活で稚気に満ちたキャラクターではなく、どこかしら醒めきった冷ややかなものを見せる主人公・佐助の横顔には、疑いも無い菊地風の虚無が宿っている。
 
 つまり、これは時代小説の舞台を借りた「菊地秀行の小説」であって、それ以外の何者でもない。
 いや、そもそもは時代小説のみに限ったことではなかった。
 ジュブナイル、ホラー、架空戦記、と、何を書いてもおよそぶれることなく作風が一貫し、自身のエンターティメントの様式の中にジャンル自体を呑み込んでしまう、それが菊地作品だった。……よくかんがえると、これはもう一人の熱烈な風太郎ファン、石川賢にもよく似ている。面白い偶然か。
 
 ということで、菊地ファンならば安心して手にとってよい作品である。一応、カテゴリーは時代小説に入れてはみたものの、本来はSF、いや、「菊地秀行」というカテゴリーを作るべきだろうか。★2つ。
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2015年10月11日

ジャンヌ・ダルクまたはロメ

 フランスの歴史に題材を求めた作品を得手とする、直木賞作家・佐藤賢一による短編集。

 全7編
「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」
「戦争契約書」
「ルーアン」
「エッセ・エス」
「ヴェロッキオ親方」
「技師」
「ヴォラーレ」

 佐藤賢一の書く主人公たちは、常に煩悩に満ちている。
 権力者に反感を抱き、美形の同性に嫉妬し、思いを寄せる相手には妄想を逞しくする。
 その描写を目の当たりにすると、露悪的を通り越して、いや、ここまでお下劣でなくても、という感を抱かざるを得ない部分が往々にしてあるのだが、しかし、そういう人間であるからこその生命力の躍動感とでもいうようなものもまた、確実に伝わってくるわけで、結果として、どこか吹き抜けるような読後感を得ることができる。
 
 代表作のほとんどが分冊されていることからも判断できるように、長編を得意とする作家であり、また、事実、私が初めて読んだ短編集である本書と比較しても、精彩は長編の方にありそうだ。
 本書に収められた作品でも、40ページに満たないものでは、キャラクターがやや魅力に乏しく、それを越えるとお馴染みの“煩悩”が輝き始める雰囲気で、作品の印象もそれに比例したものとほぼなっている。
 
 以下が本書中のベストスリー。
 敗色濃いフランス王国の前に突如現れた奇跡の少女、ジャンヌ・ダルクの正体を、王家の筆頭侍従官・トレムイユの視点から追跡させた表題作・「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」
 
 築城術という最新式のテクノロジーを身に着けて、フランス軍の進攻の前になす術もない北イタリアの小都市に“救世主”として現れた男の目的は……という、これは本書中では最も佐藤賢一らしい一作「技師」
 
 万能天才レオナルド・ダ・ヴィンチの、しかし屈折した矜持が求めたテクノロジー、“飛行機械”にまつわるエピソード「ヴォラーレ」
 
 題材と舞台の面白さは間違いないが、やはり長編の方がお薦めか。★2つ。
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2015年10月10日

綺想迷画大全

 西遊記の翻訳者としても有名な著者による、素人でも楽しめる「名画鑑賞方法」の数々をまとめた一冊。掲載誌は『歯医者さんの待合室』という、タイトルそのままな場所での読者を見込んだ雑誌なので、一章あたりの文章はごく短いものの、カラー図版の方は平均して四枚程度と多用されて、ちょっと豪華な装丁となっている。
 
 取り上げられた題材は、欧州のものではティッツィアーノ、グリューネワルト、ティントレット、ホルバイン、ブリューゲル、と、十六世紀以前の画家の、特に宗教絵画が多くを占め、一方アジアのものでは、徽宗、郎世寧、仇英、そして本邦からも若沖、さらにイスラム世界やインドにおける写本の挿絵の数々──『ラーマーヤナ』、『薔薇園』、『王書』など、実に広範な地域のものから自由な選択がなされている。
 こういった一般向けの名画鑑賞本では、十八世紀以降あたりからの西欧絵画、ことに印象派のものに重点が置かれたものが多く、またモチーフとされるものの来歴について、単純に「当時××に実在すると信じられた動物」などといった記述のみで片付けられてしまうことが少なくないが、本書では、何故実在すると考えられたのか、といった当時の人間の世界観、宇宙観まで、簡潔ながら説明してくれるので、読み手としては、より広い世界の鳥瞰図を提示されたことによる興奮を得ることができる。
 
 文章はごく柔らかく、初歩的な世界史の知識があれば、理解は充分に可能であり、こういった本を中学生時代に読んでおけば、「学ぶこと」「知識を得ること」の楽しみについて、随分と前向きな意識が獲得できたのだろうな、などとも思った。これで価格さえリーズナブルであれば文句はないのだが、まそれは求めすぎだろうか。★3つ。

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