2016年10月23日

目嚢

 加門七海による長編ホラー小説。
怪談作家の鹿角南は、従妹の嫁ぎ先、菊池家の古い土蔵で見つかった「目嚢」という古文書を預かる。そこに記された怪談に興味をひかれ、菊池家の歴史を調べようとする南だが、まるで誰かが邪魔するように、指が切れ、虫が湧き、一人暮らしの部屋に異変が起こり始める。迫りくる怪異は、止まることなく続いていく……。
名手が描く、背筋が凍る傑作長編ホラー小説。
               本書裏表紙 内容紹介から

 怪談好きであれば想起する、根岸鎮衛の「耳嚢」が書名の由来するところ。鎮衛が聞いた話を書き留めたところから「耳」を書名に入れたのに対し、こちらは作中の人物が自身目撃した妖異の記録ゆえに「目嚢」とつけた、という設定。すなはち、体験談の記録なのである。
 こういった日記などに多い古記録から、そこにあった怪異と、平行して主人公が現代に遭遇する怪異との関わりを探る、というのは怪奇小説の古典的なスタイルのひとつだ。日常の話題の中に散発的に語られる短い怪談を、パズルのごとく組み合わせて事実にたどり着く、一種ミステリー的な妙味がある。重層的でタイムスケールを大きく取っているものの、あの「残穢」も、このバリエーションに分類できるだろう。

 ただし、本書の場合は、「残穢」などに比較してはページ数の制限もあって、そこまで入り組んだ謎をしつらえてはいない。とはいえ、個々のエピソードのインパクトは引けを取らず、加えて戦前の記録とされる語り口調が、いかにも古い時代の教養と観察眼を備えた人物のものであり、実務的とさえ言えそうな淡々とした調子と相まって、読み手の想像力をただ昏い方へと追う力は並ならぬものがある。杉浦日向子の「百物語」を髣髴とさせられる、と言えばそのポテンシャルは理解されようか。
 そして、それだけの作品であるだけに、やはりボリュームに不満が残る。
 作中には、もう少し発展させることができそうだったエピソードもあり、登場人物の掘り下げを含め、作品自体のスケールもより大きな規模に構築することも可能なもので、あと100ページほどもあれば、とは読後に感じさせられたところだった。
 新刊で出たばかりのときにこんなことを言うのも何ではあるが、書下ろしを加えた改定新版が企画されないものか、そんな気持ちにさせられた一作だった。
 
 本年のジャンル長編中のベストスリーには入れられそうな、怪談の本義である「怖さ」を正しく追求した傑作。★3つ。
posted by Sou at 20:59| Comment(2) | TrackBack(0) | 読書:怪談・ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月14日

黄金の犬 真田十勇士

 作者による“真田十勇士”ものには「佐助を討て」が既にある。
 本作とは個々のキャラクターはやや異なっているものの、メンバーの中心となる才蔵と佐助の、陰陽に対比される性格付けと、ほとんど人類の外に踏み出した能力などは共通する。そして、こういった超人を登場させながら、作者のごつごつとした骨太な文体は、ややもすれば軽く感じられてしまいそうな設定に、リアリティとはまた異なる重量感を備えさせている。腕を飛ばし、首を刎ねる、そこからほとぼしる血の色の赤黒さが見えるのだ。
 
 この重量感を土台にして仕掛けられた、伝奇ものとしての奇想は、巧妙に機能して、“十勇士”が狙う、現実には不可能と言うしかない大阪方逆転の秘策も、難易度は高いながら、ゲームとしてのバランスを獲得できている。伝奇もののルールを守り、少なくとも表向きの歴史を覆すことの無い結果に至っても、勝敗の答えは、そことはまた別のところにも見出されるのだ。
 
 少々残念だったところを挙げるならば、なにしろ240ページという紙数の乏しさで、ために十勇士といってもほとんどその特技を活かすことができないものもおり、キャラクターで魅せるのは、ほぼ佐助と才蔵の二人のみとなっていることだろうか。また、敵側の徳川方に、これといった強敵が登場しないのも物足りない。この倍程度の紙数があれば、随分と楽しめるものになったことだろうとは、読後に強く感じられたことだ。
 
 個人的には、現在もっとも関心を寄せている時代小説作家である。派手すぎず甘すぎず、ただ面白い時代小説。★2つ。
posted by Sou at 20:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書:歴史・時代小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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