2016年01月24日

さよなら、シリアルキラー

 ティーンが主人公である小説を読むことは、あまりない。
 中年の私には感情移入しにくく、また、読後の感想もいまひとつということが多かったからだ。しかし、本書はその久々の例外となった。
ジャズは高校三年生。町ではちょっとした有名人だ。ある日、指を切りとられた女性の死体が発見され、ジャズは連続殺人だと保安官に訴える。なぜジャズには確信があったのか──彼が連続殺人犯の息子で、父から殺人鬼としての英才教育を受けてきたからだ。親友を大切にし恋人を愛するジャズは、内なる怪物に苦悩しつつも、自ら犯人を捕らえようとする。全米で評判の青春ミステリ。

                        本書裏表紙 内容紹介より

 暗黒面に落ちた父親を否定し、その息子であるがゆえの優れた能力を駆使して自身の未来を拓く物語、と書いてしまえば、まあどこかで見たような気がするというか、一種古典的なものなのだが、それだけに個性と完成度を高めることは難しい。
 本作の場合、「シリアルキラーの父親」という設定はたしかにアイディアなのだが、それよりは主人公であるジャズのキャラクターの深い掘り下げによってそれに成功しているようだ。
 
 この主人公・ジャズは一般的な意味では好人物ではない。
 万人に愛される美貌による魅力を行使し、目的のためには他者を利用することをためらわない。そして、父親から授けられた対人交渉術は、とてものこと10代の少年のものではない。
 しかし、それでもなお、家庭を失った少年の孤独感は、常に物語に満ちている。
 世界へのかすかな信頼に支えられた倫理と、それを脅かす「血」の呪縛、そして、あまりに巨大な存在である父親の及ぼす支配力。それらの狭間を息をつめるようにして歩む17歳の心の描写は、年齢を越えて、読み手にもたらすものがあるようだ。
 
 そして、この若者の姿を伝えてくれる、本書の訳は良好である。
 ジャズと、彼の良心を深いところで信じているガールフレンドのコニー、そして親友のハウイー。作中の会話文で、それぞれの口調がいかにもらしく、あー、アメリカのティーンの女の子は、こういう言い方をしそうだな、というところが優れて同時代感を備えたものとなっている。もちろん、そういった少年少女のみではなく、信頼すべき保安官、エゴイスティックなメディア関係者、そして史上最悪のシリアルキラーである父親・ビリー、といずれの言葉もキャラクターの印象を深く記憶に刻むものとなっている。
 ちょっとこういうセリフの上手さは映画翻訳などでもあまり例をみないものなので、翻訳者の満園真木さんはそちらでの実績などはないのだろうか、と人となりを検索してみたところ、インタビューがみつかった。
 ここで語られた希望を果たされた、ということかと思うのだが、それは本書を手にする読者にとっても、幸運となっているように思う。
 
 三部作ということなのだが、一冊目しか読んでいない今から、すでに三冊しか読めないのか、と、それが残念に思われるシリーズだ。★3つ半。
この記事へのコメント
厄介な一族による内輪もめの物語ですね(^ω^)
アア、ミモフタモナイ。

ところで、青春ミステリはツボなんですよねえ。
翻訳ミステリは最近まったく読んでいなくて、これはとてもおもしろそうですね。
チェックしとこうっと!
Posted by K@zumi at 2016年01月25日 16:44
ええ、これはお薦めですね。

プロファイリングなどで語られるシリアルキラーにみられる性格の特徴など、ストーリーにしっかり組み込まれていて感心しきりです。
Posted by Sou at 2016年01月26日 21:07
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