2016年08月21日

家政婦トミタ

 幸せな家庭にやってきた、優秀な家政婦さん。さて彼女の正体は、というまあ隠してみても隠しようのないような素直なストーリー。だが、意外に面白い。

 本書の作者の高田侑は、第4回ホラーサスペンス大賞の受賞者。
 ホラーといえば、どうしても若者向けの印象があるが、この作者のペンはデビュー当初から奇妙に老成したところがある。超自然的な怪物よりも市井のエゴイスト、ことに金銭欲に憑かれた人物は、平山夢明や福澤徹三に劣らぬ、しかも、美意識の欠片も無い、あきれるほどに薄っぺらでグロテスクな個性として描きあげる。
 これは、作者の卓越した人間観察能力が活かされたものだろう。
 いや、実を言うと本書に限って言えば、「それだけ」という感もないではない(苦笑)
 ストーリーにはこれというヒネリもなく、ほとんど一本道で意外性もない。加えて、タイトルからも明らかな通り、読み手に特定のキャラクターを想起させることも計算においているだろう。これはやや安直にも見えることは否定できない。
 しかし、それで退屈する、というものではないのがこの作家の筆力なのだ。
 一人一人の登場人物が、その役どころとしてはパターン通りながら、現実の人間が持つ細かな心の揺れや人間的な癖、美点と欠点、そういったものをしっかりと与えられて造形されているために、その展開さえもおよそ見通せる筋立てにも、退屈するところ無く付き合うことができるのである。
 言ってみれば、平凡な脚本家による新鮮味の無い脚本を、一流の演技力を持つ役者が演じたドラマのようなもので、未知のものとの遭遇による驚きを期待して読むべき作品とはなっていないが、一定の時間を楽しむための娯楽小説としては、たしかな水準をクリアしていると言えそうに思う。
 
 付言しておけば、作者にストーリーテーラーとしての力が無い、ということではない。
 少なくとも、『うなぎ鬼』や『汚れた檻』などを読む限りでは、そちらの実力についても間違いはない。それらと比較しては、本作への評価は少々落ちる、というだけのことである。
 リアリティのあるノワールな世界が好きな読者ならば、気に入る作家なのではないだろうか。★2つ。
posted by Sou at 20:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書:怪談・ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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