2016年10月14日

黄金の犬 真田十勇士

 作者による“真田十勇士”ものには「佐助を討て」が既にある。
 本作とは個々のキャラクターはやや異なっているものの、メンバーの中心となる才蔵と佐助の、陰陽に対比される性格付けと、ほとんど人類の外に踏み出した能力などは共通する。そして、こういった超人を登場させながら、作者のごつごつとした骨太な文体は、ややもすれば軽く感じられてしまいそうな設定に、リアリティとはまた異なる重量感を備えさせている。腕を飛ばし、首を刎ねる、そこからほとぼしる血の色の赤黒さが見えるのだ。
 
 この重量感を土台にして仕掛けられた、伝奇ものとしての奇想は、巧妙に機能して、“十勇士”が狙う、現実には不可能と言うしかない大阪方逆転の秘策も、難易度は高いながら、ゲームとしてのバランスを獲得できている。伝奇もののルールを守り、少なくとも表向きの歴史を覆すことの無い結果に至っても、勝敗の答えは、そことはまた別のところにも見出されるのだ。
 
 少々残念だったところを挙げるならば、なにしろ240ページという紙数の乏しさで、ために十勇士といってもほとんどその特技を活かすことができないものもおり、キャラクターで魅せるのは、ほぼ佐助と才蔵の二人のみとなっていることだろうか。また、敵側の徳川方に、これといった強敵が登場しないのも物足りない。この倍程度の紙数があれば、随分と楽しめるものになったことだろうとは、読後に強く感じられたことだ。
 
 個人的には、現在もっとも関心を寄せている時代小説作家である。派手すぎず甘すぎず、ただ面白い時代小説。★2つ。
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2016年08月28日

景徳鎮からの贈り物―中国工匠伝

 陳舜臣による、中国史を舞台とした工匠たちの物語。
 
 全8編
「金魚群泳図」
「挙げよ夜光杯」
「波斯彫檀師」
「景徳鎮からの贈り物」
「墨の華」
「景泰のラム」
「湖州の筆」
「名品絶塵」

 文庫本の初版は1984年と、30年以上昔の作品になる。
 しかし、歳月によって古びてしまったとは、ほとんど感じさせられることがない。
 熱っぽい文章ではなく、淡々としながら、しかし佳境に入れば、ピンと張り詰めたものがみなぎって、何時の間にか登場人物の気持ちに同調させられてしまうのである。
 中国史と一口に言っても日本人に馴染みのある時代ばかりではないのだが、「湖州の筆」を除いては、いずれも作者の身辺雑記的な話題から始まって、簡明に工芸品・美術品の歴史と背景を語り、そこから慣れた筆で過去の世界に誘導されるために、読み慣れない固有名詞の頻出する時代小説といえども、その敷居はごく低い。
 また、歴史小説にありがちな、大仰な言葉を登場人物に使わせたりしないのもこの作者の特徴だが、それでいながら重厚な歴史知識は、小手先の演出では醸し出せない味わいを小説に与えており、どうも熟練の筆、といったところだろうか。田中芳樹や井上祐美子といった、中国史を題材とする作家たちがそろって表明する作者への敬意は、ただ先行者という理由のみではないことが納得できる一冊だ。
 
 名工匠による超人的な技巧について記した物語ばかりだが、奇跡譚の類ではなく、また、血涙の滲む修行の物語でも無く、天下に屈指の特殊な技能を持つ人々の、その技能への傾倒を生み出したきっかけとなるドラマを綴った物語。
 
 清朝末期の西域を舞台に、心ならずも反乱勢力の下で働かざるをえなくなった刺繍の名手・張晋渓が、自身の知略と卓越した技能によって、その境遇からの脱出を試みる「金魚群泳図」が★3つ、他は2つ〜2つ半、というところ。
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2016年03月06日

賤ヶ岳

 信長の後継者争いというのは、本来ならば戦国末期の一大イベントであったはずなのだが、どうもフィクションの世界で取り上げられることが少ない。これは、一方の陣営である柴田勝家側の武将がいまひとつ知名度が乏しい、ことに、知略を用いる軍師タイプの武将の不在が大きいように思う。
 なにしろ、秀吉側は、秀吉自身が織田家中随一と言って良い智謀の持ち主であることに加え、軍師の黒田官兵衛も加わっているわけで、これは猛将ぞろいの体育会系めいた柴田勢には、どうも勝ち目がありそうにないのである。
 
 そこで、ということなのか、本書では柴田勝家の側近・毛受勝照を軍師役としてスポットを当て、複雑な政治的取引に疎く、秀吉の策略に追い込まれていく主君・勝家を、懸命に補佐する忠節の智将として登場させている。
 史実の勝照がそういった立場にあったのかはよくわからないのだが、こういったキャラクターの登場によって、新興企業に追われる斜陽の老舗めいた柴田勢の悲哀が、いっそうくっきりとしたものとなっている。
 
 大戦力を率いながら優柔不断な信長の息子たちや、軍略の才を持ちながら、それを振るう機会を得ることができない滝川一益、秀吉との個人的な友誼と自身の将来、そして勝家の恩義の間に挟まれて苦悩する前田利家など、その時代に生き残ろうとするそれぞれの武将の判断も、賢愚のみに分かつことの出来ない群像として描かれている。
 
 骨太の文体と筋立て。正統派の戦国歴史小説。★2つ。
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2015年11月08日

佐助を討て

 戦国時代の架空のヒーロー・猿飛佐助を、しかし主人公には据えず、彼を討つことを命じられた、徳川家の名も無き忍者たちの側からその戦いを描いた一作。
 
 敵である佐助は、人間の限界をはるかに超えた能力を持つ悪夢のごとき存在、一方、主人公たちは、優れた忍びとはいえ常人の身、チームワークと多勢と、捨て身の覚悟より頼るものはなく、佐助ともう一人の超人・霧隠才蔵の手にかかっては、彼らの身に指一本触れることもかなわず、次々と命を奪われていく。
 しかも、幕府の体制はすでに磐石のものとなり、佐助以下、真田十勇士の残党にも、それを覆す力などはない。つまり、主人公たちは捨て置いてもかまわない残敵掃討のために、死地に臨むのである。
 
 生命を賭けつつも、それが無意味なことであるという、この虚無感は本書の全編に濃く漂っている。
 そしてこれは、ジャンルの事実上の創始者、山田風太郎の忍法帖にも通じるものがある。世界そのものの不条理の中で、圧殺される青年、老人、少女、そして異能力者、しかし、その中にあってもなお、人生を生きるに値しないものとは結論付けていないところにもまた、風太郎作品同様の吹き抜けるものがあって、読後感は悪くない。
 
 と、ちょっと硬い感想になってしまったのだが、実は読んでいる最中に、風太郎作品と平行して連想したものがあった。この話はあれだ、特撮番組の、悪の組織の戦闘員の記録に近い(笑)
 佐助の無闇に強いのに戦いを好まぬところはそういった作品の「正義の味方」を思わせるし、佐助との戦いに魅入られて組織に従わない行動をとる才蔵は、ハカイダーとかタイガージョーとか(古すぎか)、あのあたりのキャラだ。そして、主人公たちは、正義の味方に蹴散らされる、名も無き戦闘員である。
 ……と、こう書いてしまうと今度は一気に柔らかくなりすぎかも知れないが。
 
 甘さや笑いの無い、男性的なごつごつとした物語だが、敵役のキャラクターはよく立っており、伝奇的な意外性の展開もあり、私好みの時代娯楽小説だった。★2つ半。
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2015年10月12日

真田十忍抄

 菊地秀行が描く「真田十勇士」の物語。

 山田風太郎へのリスペクトに満ちた作品を数多く発表している菊地秀行だが、本格的な忍者ものの時代小説については、あまり記憶にない。それでは本作こそが、その代表作となるのか……と思えば、いや、どうだろう。

 なんとなれば、菊地秀行はやはり菊地秀行なのだ。
 猿飛佐助の自在に操る妖糸とも言うべき「武器」は、物理法則を越えて万物を切断し、超絶美形キャラは、その美貌そのものが怪しい忍の技の源泉であり、さらに美女は、これまたやはり、過剰なまでに淫蕩である。そして、立川文庫以来の快活で稚気に満ちたキャラクターではなく、どこかしら醒めきった冷ややかなものを見せる主人公・佐助の横顔には、疑いも無い菊地風の虚無が宿っている。
 
 つまり、これは時代小説の舞台を借りた「菊地秀行の小説」であって、それ以外の何者でもない。
 いや、そもそもは時代小説のみに限ったことではなかった。
 ジュブナイル、ホラー、架空戦記、と、何を書いてもおよそぶれることなく作風が一貫し、自身のエンターティメントの様式の中にジャンル自体を呑み込んでしまう、それが菊地作品だった。……よくかんがえると、これはもう一人の熱烈な風太郎ファン、石川賢にもよく似ている。面白い偶然か。
 
 ということで、菊地ファンならば安心して手にとってよい作品である。一応、カテゴリーは時代小説に入れてはみたものの、本来はSF、いや、「菊地秀行」というカテゴリーを作るべきだろうか。★2つ。
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2015年10月11日

ジャンヌ・ダルクまたはロメ

 フランスの歴史に題材を求めた作品を得手とする、直木賞作家・佐藤賢一による短編集。

 全7編
「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」
「戦争契約書」
「ルーアン」
「エッセ・エス」
「ヴェロッキオ親方」
「技師」
「ヴォラーレ」

 佐藤賢一の書く主人公たちは、常に煩悩に満ちている。
 権力者に反感を抱き、美形の同性に嫉妬し、思いを寄せる相手には妄想を逞しくする。
 その描写を目の当たりにすると、露悪的を通り越して、いや、ここまでお下劣でなくても、という感を抱かざるを得ない部分が往々にしてあるのだが、しかし、そういう人間であるからこその生命力の躍動感とでもいうようなものもまた、確実に伝わってくるわけで、結果として、どこか吹き抜けるような読後感を得ることができる。
 
 代表作のほとんどが分冊されていることからも判断できるように、長編を得意とする作家であり、また、事実、私が初めて読んだ短編集である本書と比較しても、精彩は長編の方にありそうだ。
 本書に収められた作品でも、40ページに満たないものでは、キャラクターがやや魅力に乏しく、それを越えるとお馴染みの“煩悩”が輝き始める雰囲気で、作品の印象もそれに比例したものとほぼなっている。
 
 以下が本書中のベストスリー。
 敗色濃いフランス王国の前に突如現れた奇跡の少女、ジャンヌ・ダルクの正体を、王家の筆頭侍従官・トレムイユの視点から追跡させた表題作・「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」
 
 築城術という最新式のテクノロジーを身に着けて、フランス軍の進攻の前になす術もない北イタリアの小都市に“救世主”として現れた男の目的は……という、これは本書中では最も佐藤賢一らしい一作「技師」
 
 万能天才レオナルド・ダ・ヴィンチの、しかし屈折した矜持が求めたテクノロジー、“飛行機械”にまつわるエピソード「ヴォラーレ」
 
 題材と舞台の面白さは間違いないが、やはり長編の方がお薦めか。★2つ。
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2015年05月16日

蘭陵王

 田中芳樹による、これは珍しい中国の南北朝期を舞台とした歴史長編。

 蘭陵王は雅楽にも登場する、この時代随一の有名人。
 貴種にして容姿端麗、その美貌を出陣にあたっては鬼神の仮面に隠し、臨む戦場においては不敗……という、まあ、馬超と張遼と周瑜を足して3で割らないような存在であり、三国志の時代に生を受けていれば、知名度は現代の日本でも中国史上最高ともなったかも知れない人物である。
 が、そうなっていないのは、彼が生きた「南北朝期」という時代そのものの不人気に原因がありそうだ。ただし、それは私たちの不勉強に責があるのだが。
 
 事実、田中芳樹によって活写されるこの時代の人々は、十分に魅力的だ。
 暴虐な暗君、叡慮を持つ英主、策謀を常とする奸臣、清廉剛直な忠臣、慈愛と勇猛を備えた名将、驕慢と怯惰の愚将。世にあるさまざまな感情を備えて動く人々があり、さらに、どうしてもカテゴライズすることのできない祖テイ(王に廷)のような複雑な性格を持つ人物さえも登場する。
 田中芳樹のよくこなれた文章によって、彼らの息吹は読み手に伝わってくる。
 そして、ときに交えられるユーモアも、諧謔の苦さも、、現代人の感覚からかけ離れておらず、歴史小説という堅苦しさがない。さらに、ヒロインである徐月琴の、古い時代小説にはない闊達な明るさが読後感に爽やかなものを添えてくれる。
 
 『銀英伝』から四半世紀、衰えを危惧しつつの読書だったのだが、いやいや、これは全くの杞憂であったようだ。★3つ。
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2015年03月14日

本朝甲冑奇談

 古武器、軍装の解説書なども著している、作家・東郷隆による、甲冑にまつわる奇談短編集。

 全6編
「しぼ革」
「モクソカンの首」
「角栄螺」
「小猿主水」
「甲試し」
「金時よろい」

 歴史小説を読む際に、作者がどの程度、史料に基づいているのか、ということは、一読者にはなかなかに想像の難しいことなのだが、それでも明らかに水準以上なのではないか、と感じさせられることが多いのが、この東郷隆だ。
 たとえば「小猿主水」では、大名家の家譜を丹念にあたることで無名に等しい武将である着用者の名前をさがしあて、あるいは「モクソカンの首」では、朝鮮半島に伝来していた欧州製の兜の来歴を調べ、と、現代の作者が美術探偵めいて資料の森の中に分け入るところから語られはじめる物語は、史実の礎がきっちりと整えられている。そして、それであればこそ、それに続く数奇との対比も鮮やかである。
 
 この数奇が、ほぼ幻想譚の域に入るのが、織田信長と一種人ならぬものとの奇妙な交わりを描いた「しぼ革」
 
 朝鮮戦役での日本武将の生活を、巧妙争いや占領地での検地、などというあまり他の作家の著書では読んだことのない史実をベースに記したのが「モクソカンの首」
 
 「角栄螺」は、蒲生氏郷、続いて上杉景勝に仕え、知勇を備えながらも吝嗇で知られたキリシタン武将という、奇人・岡左内の一代記。
 
 「小猿主水」は、仙石氏に仕えた谷津主水なる無名の武将を主人公として、戦国時代から開幕期への時代の移り変わりの中で生きる中・下級武士の姿を描いたもの。
 
 近藤勇の愛刀としても名高い虎徹を生み出した刀匠・長曽根虎徹は、その人生の前半部においては甲冑師であった、という意外な史実を教えられる「甲試し」
 
 徳川家の戦においては常に先鋒を承り、幕府軍事力の象徴とも言える“井伊の赤備え”に組み込まれた雑兵が、その視点から語る幕末、長州征伐の敗戦記「金時よろい」。
 
 他に例を見ない独自の作風に、愛読者にとっては新刊は常に貴重だ。★3つ。
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2015年02月16日

蘭学探偵岩永淳庵 海坊主と河童

 小松左京賞作家……と言いながら、どうもSFよりもホラーや時代小説での活躍が目立つ、平谷美樹による蘭学者を探偵役に据えた文化文政年間を舞台とした捕物帳。

全4編
「高櫓と鉄鍋」
「鬼火と革紐」
「吉と橘」
「海坊主と河童」

 サブタイトルに「海坊主と河童」とあるので、これは昨今はやりの妖怪がらみの時代小説路線にも見えるが、実際には怪談調のエピソードは、かろうじてサブタイトルの一編のみで、そのほかは怪奇大作戦……いや、スチームパンクな味わい? 実話怪談の著作もある作者なので、怪談は得手であるはずなのだが、そちらに注力したストーリーではない。

 まあ、それが不満ということではない。
 ちょっとひねたインテリの主人公、肉体派の火付盗賊改方同心、小太刀の名手である深川芸者、3人組の設定は、むしろ活劇的舞台の方が似合っていそうであるし、事実、3人が奥州藤原氏の隠された財宝探しに挑む「吉と橘」のような冒険的趣向に満ちたものの方が、彼らの魅力を楽しめるものと感じられた。
 また、あまりがちがちの時代小説マニア向けの作品ではなく、主人公たちの言葉遣いも、その階級意識等も、考証をおおらかに取って、時代劇初心者にも敷居の低いものとなっている。このあたりのライトな感覚は、昨今の時代小説ブームを支える作り手の努力のひとつだろうか。

 全4編中では、背景の作り込みも冴えた「吉と橘」が個人的な第一、副題となる第4作「海坊主と河童」は、江戸の世界に生きる主人公の様々な思いが、もっともくっきりとするところだが、ストーリーはやや単調。

 史実を押さえるところ以外では、もう少しキャラクターを濃くしてみてもよかったかも。★1つ半。
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2015年01月31日

女信長

 上杉謙信女性説というのは八切止夫によって広められた珍説だが、本書は織田信長が女性だった、という大胆な着想に基づいた、必然的に大胆な歴史小説。

 こういう意外な人物を女性化した場合、その実相は、大方は男性を装う気丈なうちにも女性らしい純真さを備えた人物として、一種ジャンヌ・ダルクめいた凛とした造形がなされそうに思われるのだが、何しろ独自の「下半身史観」とも言うべきものを持つ佐藤賢一のことである。信長こと「御長」は、叛心を抱く家臣を懐柔するに自身の美貌を持ってし、同盟を結ぶ相手とはとりあえず同衾して信頼関係UPという、他の大名には真似できない方法で天下取りに乗り出すのである。
 正直、このへんの件は、中年男性読者である私でさえ些か辟易するところもあるのだが、直木賞作家である作者の実力は、優れたリーダビリティとして私を捕らえて本を放り出すことを許してくれず、いろいろな意味で凄い小説であることを思い知らされる。
 
 そんな調子のキャラクターながら、必ずしも人物造形は荒唐無稽とも言い難い。
 信長は、男性に都合の良いお人形さんでは断じて無いが、しかし、リアリティがあるというのともまた異なる、奔放さと心の揺れる弱さの持ち主であり、そこに奇妙な魅力がある。
 それは、彼女の親友となってしまう正室・お濃の方や、有能な部下にして包容力のある大人の男性・明智光秀の姿と同様、ちょんまげを結った現代劇的甘さを含みながらも、尚、人々の心の動きは自然なものと見える。さらに、酷く人間くさい数々の営みを描いたこの物語の最後に、律儀な同盟者・徳川家康が秘め続けていた記憶を記すラストは、驚いたことに爽やかな読後感さえももたらしてくれるのだ。
 
 まあ、好き嫌いの分れる作品かと思う。数年前に天海祐希主演でドラマ化されているのだが、スチールを観る限りこれも中々に雰囲気だ。★2つ半。
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