2016年08月16日

トゥルー・グリッド

 J・ウェインの『勇気ある追跡』と、同じ原作による2010年度アカデミー賞10部門ノミネート作品。

 ストーリーは、娯楽作品の王道たる仇討ち。
 父親の仇のガンマンを、追うは14歳の少女、助太刀役は腕利きのガンマン。
 数々の困難を乗り越えて、本懐を遂げたあかつきに、二人の間には淡い感情が芽生える……という展開にならないのは、実はその助太刀役は、腕利きではあるものの還暦に近いかと見える保安官であり、少女と並んでは恋人どころか祖父と孫娘にしか見えない年齢差があるからだ。
 したがって、この物語にはロマンスはなく、それに代わって描かれるのは男たちの父性的な愛情、そして、老境にいりながら尚、少年のような負けん気を持つ老保安官に与えられる、少女からの母性的愛情だったりするわけである。その描写は、通り一遍のロマンスよりも、よほどに優しく微笑ましい。
 
 そして、恋愛の要素を排したとはいえ、この作品はお子様向けになっているわけではない。
 たしかに、コミカルな件はあるものの、子供に本来は見せるべきではないはずの縛り首のシーンなどもしっかりあって、現実の西部を過剰に無菌化しない節度を維持している。
 また、筋立てそのものはオーソドックスで、敵味方の色分けもはっきりとしている反面、敵役の人物も特別に悪逆非道なキャラクターではなく、法を犯すのも生活のため、と諦めを半ばに抱いている様子がある。その一方、助太刀役の二人はともに元南軍兵士であったことに誇りを抱き、しかもコグバーンは、歴史的には虐殺者として名高い人物の肩を持つなど、型どおりの正義漢でも聡明な人物でもなく、むしろ固陋な人物であることを見せるなど、キャラクターに与えられた陰影も、それなりの複雑さを備えている。
 
 とは言え、大衆的な娯楽作品としてのセオリーは外していない。
 素直に少女の健気さに感心し、老ガンマンの、ここぞというところでの活躍に拍手をすることができる。惜しむらくは、あまりに真っ当に出来が良くて、感想を書いても褒めるところしかないのが面白くない。やはり、あちらこちらに無理や破綻が見えるB級作品の方が、私には感情移入しやすいようだ。
 
 大人から老人までが楽しむことの出来そうな、良質の西部劇。★3つ。

2016年08月13日

灯台守の恋

 このBlogで語るにはらしくないタイトルなのだが、原題は『L’EQUIPIER』で、「チーム・パートナー」といった意味になるらしい。
 
 1963年のフランス、ブルターニュ。世界の果てとよばれる荒涼とした土地、ウエサン島に新人の灯台守、アントワーヌがやってくる。
 アルジェリア戦役での負傷により、片手が自由にならない経験不足の彼を、ベテランの灯台守イヴォンは未熟な厄介者と看做して追い出そうとするものの、アントワーヌの生真面目な仕事ぶりと、笑顔を絶やすことの無い人柄に、少しづつ心を開き始める。
 やがて、イヴォンの家族たちも親しみをもって彼と接しはじめる中で、イヴォンの妻、マベとアントワーヌの間には、互いを意識する感情が芽生えてくる。
 
 アントワーヌを演じたグレゴリ・デランジェールは、長身で金髪、優しい笑顔は役柄を大いに説得力のあるものとしているし、マベ役のサンドリーヌ・ボネールは、その表情のひとつひとつが非常に魅力的な女優だ。
 それとわかる映像効果を用いなくても、島の風景はフランス映画らしい落ち着いた色調を備えて美しく、その中で積み重ねられていく日常のエピソードは、若いとはいえない年齢の人々の心のゆらぎをよく映し出している。
 しかし、これがシンプルな中年向けロマンス映画とは決定的に異なっているのは、やはりイヴァン役のフィリップ・トレトンの人物像の深みゆえだろう。観ようによっては道化にも邪魔者にもなりかねないポジションながら、イヴァンの行動は実に重く、そしてこの映画の内容を決定する温かさに満ちている。
 原題『L’EQUIPIER』=「チーム・パートナー」は、アントワーヌとイヴォンという男たちの友情を意味するだけではなく、イヴォンとマベの夫婦という間柄についても重ね合わせたものであろうし、また邦題の「灯台守の恋」も、二人の男それぞれの心のかたちを指したものなのだろう。これら重層的な人間関係が、そのいずれも遊離することなく描きこまれた104分の時間は、実に稠密なものと感じられた。
 
 舞台となったブルターニュという土地が、フランス国内でも独自の文化を持ち、分離独立運動が現在もなお存続する土地であるという事実や、アントワーヌがアルジェリアで所属していたのは、住民の弾圧をもっとも過酷に行ったとされる空挺部隊であったという事実など、フランスの抱えた歴史と現実を知れば、さらに登場人物たちの表情の陰ひとつにも、より複雑なものを読み取れるように思う。それだけの奥行きをこの映画は備えていそうだ。
 
 フランス映画らしいフランス映画の傑作★3つ半。

2016年08月07日

ピストルオペラ

 殺し屋をまとめる組織「ギルド」に内紛が起きる。
 ナンバー1の殺し屋「百眼」の手によって次々と消されていく殺し屋たち。ナンバー3のポジションにある「野良猫」こと皆月美有樹も、その標的とされるが……というのが導入部だが、公開時に観てそのストーリーはよくわからなかった。で、久方ぶりにあらためて観てもやはりわからない。さすがは鈴木清順である。こういうマイペースなスタイルを維持できるのは、やはりその「清順美学」に魅了され、それに貫かれた新作を渇望するファンの支持があればこそなのだろう。
 私は正直なところ、この手のストーリーを把握できない作品を楽しむ能力は持ち合わせていないのだが、それでもかの『ツィゴイネルワイゼン』には圧倒されたし、この作品もまた、なんだかわからんが凄いし面白いぞ、という感想を抱かされた映画だった。
 
 独特の色彩感覚、構図、イメージを先行させたカットのつなぎ、弛緩を意識するその瞬間に入ってくる音楽、そしてその動きをどのタイミングで切り取っても、完璧な絵となっていそうな山口小夜子の超然とした美しさ、対峙する江角マキコの均整の取れた長身は、黒い和服にブーツという個性的な衣装をまとって、肉体そのものの持つ魅力を感じさせてくれる。物語の筋とか、そういうことはとりあえず措いておいても構わない映画というのがたしかに存在するという、実感を得ることが出来る作品だと思う。
 ちなみに、脚本は伊藤和典、特撮は樋口真嗣と、かなり意外な起用だが、彼らのカラーらしきものは特に感じられない。聖書の引用ではないかと思われるセリフの存在が、かろうじてそれらしいところだろうか。
 
 それにしても、およそ実用性の片鱗も無いスカートを身に着けながら、優雅に振舞うことのできる山口小夜子の挙措は必見である。ああいう動きの出来る女優というのは、私の狭い見聞の中には、他に思い当たる名前がない。
 
 感性でその世界に浸るべき映画。★3つ。